(執筆日:2009年07月22日)
美青年の視線が私からはずれ、道路のほうへと向いた。つられて私も振り返る。
道路の真ん中で、各務くんが驚いたような顔で立ちすくんでいた。なんで彼がここに、なんて考える暇もなく、美青年が彼に向かって怒鳴りつけた。
「おまえもだっ。ボケッとしてるんじゃないっ! とっとと走れっ!」
各務くんは一瞬戸惑った顔をしたものの、駆け出してきた。そして傍へと来ると、いきなり背後から私を抱き起こしてきた。
「走って」
「……えっ?」
訳がわからないまま、私は走った。不思議と各務くんの言う通りになら、身体が動いた。美青年に引っ張られて歪んだ空間の亀裂へと引きずり込まれ、後ろから支えてくる各務くんもついてきた。その瞬間。
世界が光った。
全身が弾き飛ばされた。誰かに強く抱き締められ、それがクッションになって、地面に叩きつけられずに済む。
視界の中に見えたもの。
歪んだ空間の中心にあった亀裂に、両手をかざして必死で塞ごうとしている美青年の姿。
その空間の向こう側には、まるで雷が大量に降ってきたような光の洪水。
亀裂はみるみる小さくなり、同時に眩しい光も消えていった。
「……間に合った」
美青年の唇から小さな呟き。疲れきったような背中。
「……いってぇ……」
すぐ傍から各務くんの呻くような声が聞こえて、私はハッとした。うきゃああぁっ、各務くんに抱き締められてしまっているっ!
慌てて飛び起きた。振り返ると、苦しそうな各務くんが横たわっている。少し怪我をしていた。
「だ、だだっ、大丈夫っ?」
「これが、大丈夫に見えるのかよ?」
「見えませんっ。ごめんなさいっ。そして、ありがとうっ」
私はどうしたらいいのかわからず、ただひたすらに恐縮した。
つづく
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