太陽の風・月の空 18

(執筆日:2009年07月29日)

 各務くんが横から私の腕をつかんで、引っ張った。
「落ち着けよ」
「だって……落ち着いてなんかいられないよ。私たちのいた世界がなくなったなんて言われたんだよ。そんなバカなこと、あるわけないじゃない。全部この人の嘘よ。嘘に決まってる!」
 私は各務くんに向かって訴えた。どうして各務くんは、こんなにも冷静で落ち着いていられるんだろう。少しは一緒に反論してほしかった。なのに各務くんは途中から、何も言わずに見ているだけ。
「いいから、落ち着けって。わめいて叫んで解決するような場面じゃない。それに俺たちは今すぐには帰れない。帰るための道もない。どっちみち、当分はここにいるしかないってこと」
「やだ」
 私はかぶりを振った。そんなの嫌だった。
「やだ。帰りたい。今すぐ帰りたいよぉ」
 急に涙が溢れてきた。世界がなくなったとか、もう帰れないとか、みんな意地悪だ。どうして、そんなことばかり言うの。ある日突然、世界が光の洪水に飲み込まれてなくなったなんて、誰がそんな話を信じるのよ。現実的じゃないじゃない。
「北丘。俺の話をするけど、思い当たらないわけじゃないんだ」
 各務くんが変なことを言い出した。私は言葉なく各務くんを見つめる。
「俺は二日前に突然転校してきた。今までアメリカに住んでいて、親父の転勤で日本に帰ってきたことになってる。でも俺には親父なんていないんだ」
 私は目を見張った。唖然として各務くんを見つめる。
「実際の俺は、親戚の家に世話になっていた。でも本当は、親戚でもなんでもないのかもしれない。アメリカにいたっていう実感もない。俺は単に、親戚に仕立てあげた相手の記憶を操作して、あの世界でうまく生きて行けるように仕向けていただけなのかもしれない」
 私は各務くんを見つめた。どうして、そんなことを言うの。各務くんは、各務くんだけは、私の味方でいてほしかったのに。

つづく
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