(執筆日:2009年07月13日)
休み時間になると、各務くんはたちまち女子生徒たちに囲まれた。前はどんな学校にいたのかとか、兄弟はいるのかとか、あらゆる質問責めに遭っていた。
各務くんはどことなく面倒そうな顔つきで、とりあえず返事をしている様子だった。やっぱり愛想のかけらもなくて、仏頂面なのには変わらない。それでも女子たちは気にすることなく、笑顔で質問を浴びせかけていた。
「ねえ、葵は何か聞かないの?」
すぐ傍にいたミナミちゃんにそんな風に聞かれ、私は反射的に愛想笑いをしてしまう。私はもうちょっと優しそうな男の子のほうが好きなんだけどな。内心でそんなことを呟いた。
「うん、私はいいや」
そんな言葉を返してその場を誤魔化した。直後、チラッと各務くんがこっちを見た。目が合った。確実に。
でも各務くんは何事もなかったかのように、ふいっと視線をそらした。私は一瞬緊張してしまった自分が腹立たしくなって、この場から離れて席へと戻ろうと思った。ちょうどその時、校内のチャイムが鳴る。
一日目はそんな感じで、各務くんという転校生に浮き足立つクラスメートばかりだった。すごい勢いで囲んでしまう女子とは真逆で、男子たちは各務くんを遠巻きにしていた。
バスケットボール部の練習のせいで、すっかり学校の外は暗かった。
最近は世の中が危なくなってきているみたいで、両親も部活動を続けるのはどうかと難色を示している。バスケットが好きだからと必死でお願いして、なんとか続けさせてもらっているような状況だった。
防犯グッズはカバンの中にいっぱい仕込んである。すっかり慣れてしまった夜道だけれど、用心だけは怠らなかった。実は今まで何かあったことなんて、一回もない。
無事に家へと到着すると、美味しそうな匂いが漂ってきた。今日は私の好きなビーフシチューだ。慌しく靴を脱ぎ、室内へと駆け込んだ。
つづく
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