(執筆日:2009年08月04日)
どこかそっけないし、無愛想だし、優しいとは思えない各務くん。だけど、吹っ飛ばされた瞬間には庇ってくれた。今も手を握っていてくれる。
本当は優しくていい人なのかもしれない。
オルドを先頭に、各務くんと私が続く。歩いても歩いても森の中。突然来てしまった別世界。森だけを見てみると、異世界のようには感じられなかった。まるで地球のどこかにある森の中のよう。
みんな無言だった。
歩いている間ずっと。
ザクザクと草や小石を踏む音ばかりが響く。
どこか遠くで聞こえる鳥の声。
同じく遠くで聞こえる何かの遠吠え。
「黙ってると長く感じるね」
各務くんが言った。
「うん」
私が返事をする。
さらに各務くんが言う。
「何か喋る? 雑談」
「そうだね。できれば難しくない話、したい」
「了解」
各務くんはそう答え、再び口を開いた。
「北丘はクラスに好きな人とかいるの? 恋愛的な意味で」
「いない」
「なんだよそれ。話が終わっちゃうだろ」
「バスケで忙しくて、それどころじゃなかった」
「女子高生らしくない返事だなぁ。年頃の女子ってのは普通、ガールズトークで花が咲くもんなんじゃないのか?」
「みんなはそうだった。けど私は違った。しょうがないじゃん。バスケが好きだったんだから」
「色気のない女だなあ」
各務くんに悪態をつかれ、私はつい軽くにらみつけてしまった。
つづく
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