(執筆日:2009年07月13日)
食卓は、私とお父さんとお母さんの三人で囲む。兄弟はいない。一人っ子。
お父さんは家と近所にある職場を自由に行ったり来たりしながら、家の設計図を描いたり、建築現場まで見に行ったりしている。一級建築士という肩書きがついていた。
お母さんは専業主婦で、一軒家の庭にあるガーデニングの手入れが生きがいのような人だ。花よりも野菜や果物のほうがわりと多い。趣味は他にもあって、パッチワークやら編み物やら、女性らしいものを好んでいる。
そんなお母さんから生まれたのに、私は活発に動けるスポーツのほうが好きだった。
食卓で、私は今日転校してきた各務くんのことを話した。
「とにっかく愛想がないの。ずっとぶっきらぼうな感じ。顔はいいのに、もったいないよ」
「あら、きっと顔がいいからじゃないの? 美形がむやみに笑顔を振りまいたりすると、女の子たちみんな卒倒しちゃうわよ。ねえ、お父さん」
お母さんは楽しそうに笑っていた。言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。あれだけ仏頂面なのに囲まれていたわけだから、愛想よくしたらますます女子たちにモテちゃうのかも。
「実は葵も気にかかってるんじゃないのか? そうじゃなきゃ、話題にもしないだろ?」
お父さんが笑顔でそんなことを言ってくる。私は反射的に慌てた。
「違うもん。そんなんじゃないもん」
「ムキになるところがますます怪しいぞ」
からかうように笑う両親を軽く睨みつけ、私はそっとため息をついた。
気にかけているつもりはないんだけどなぁ。
晩ゴハンの時間も終わり、自分の部屋へと入った。まずは宿題を片付ける。
そして改めて、各務くんのことを思い返した。
不思議な雰囲気の人だ。なんていうか、他の男子たちとはまるで違う。カッコイイだけじゃなくて、何か違うものを背負っているんじゃないかと思わせる。
私は慌てて頭を振った。これじゃあまるで、本当に気にかけているみたいじゃない。私はみんなとは違う。顔だけにほだされたりなんかしないんだから。
つづく
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