(執筆日:2009年07月19日)
「夢を見たんだ」
各務くんはいきなり話題を変えた。
「夢?」
「知ってる世界だけど知らない世界。なつかしいけど見知らぬ世界。いや、もしかしたら知ってたのに忘れているだけなのかもしれない。荒野と化した灰色の光景。全てが滅ぼされた何もない世界。かつては栄えていたのに、その面影はもうどこにもない」
「……各務くん?」
私は彼が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「隠された巨大な力。封印の鍵を取り戻さなければならない。鍵の在り処を知られた。時間はもうない。急がないと取り返しのつかないことになる」
「……ごめん、各務くん。なに言ってるのか、まったくわかんない」
「俺もわかんないよ。なにしろ夢で見ただけだから」
各務くんが、ちょっと笑った。整った顔が笑うと、急に柔らかな可愛らしい印象になる。突然、ドキリと心臓が跳ねた。
なに考えてんの、私。今はときめいている時じゃないでしょ?
だって二人っきりなのに。ドキドキしてしまったら平常心ではいられなくなってしまう。
意識してしまったら、うまく話せなくなってしまう。
「そういう夢って、見たことない?」
思いがけない質問に戸惑って、各務くんを見つめてしまった。
「なんで?」
「なんとなく」
「ないよ」
「そりゃそうか」
各務くんはまたちょっとだけ笑って、戸を開けた。教室の外へ出て行こうとする。
私は少し慌てた。
「どこ行くの?」
「どっかで時間つぶしてくる。まだ早いから。それとも、このまま一緒にいて噂の二人にでもなりたい?」
私は焦って、左右に首を振った。
「やだ。絶対やだ」
「だろ? そういうこと」
各務くんは廊下へと足を踏み出すと、あっさりと戸を閉め、姿を消した。
つづく
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