淫らな伯爵と灼熱の蜜夜 14

(執筆日:2016年06月28日)

 ドライヤーが欲しい。タニアとイーシャに客室へと案内されている間、リアナはずっとそう思っていた。長い髪が濡れて重い。この世界では自然乾燥が当たり前なのだろう。とにかく濡れた髪が重い。
 電気がないのにドライヤーがあるわけもなく、リアナは乾くまで耐えるしかなかった。
 下着をはいていないのも落ち着かない。不便なことだらけだ。
 時計もないので今の時刻がわからない。確か到着した時は日が暮れる寸前だった。風呂に入ったのはその後なので、まだ寝るような時間ではないはずだ。
 それとも電気のない世界では、早い時間にはもう寝てしまうのだろうか。
 長い廊下をさんざん歩き、タニアが客室の扉を開けると、中でデュレンが待っていた。
 部屋の中央にテーブルがあり、椅子のひとつにデュレンが待ちくたびれた顔で腰掛けている。
「遅い」
 明らかに機嫌が悪かった。
「えっ? 待っ? 待ってたんですか、ずっと?」
 リアナは慌てた。まさかデュレンが待っているとは思いもしなかったのだ。
「風呂に入るのにどれだけ時間がかかるんだ。さっと洗ってさっと出ればすぐに戻ってこれるだろう」
「ゆっくり入っていたんです」
「まあいい、もうとっくに冷めてしまったが、とりあえず食え。おまえのためにわざわざ用意させたんだから」
 テーブルの上を見ると、そこには豪華な料理が並んでいた。
 デュレンの向かい側に空いている椅子がひとつ。どうやらここに座るしかないようだ。
 リアナが部屋に入ると、タニアとイーシャが外から扉を閉めた。しんと静まり返る室内。デュレンと二人きりになってしまった。
「早く座れ」
「は、はいっ」
 リアナは慌てて椅子に腰掛けた。美味そうな匂いが鼻を刺激する。急に空腹であることを思い出した。
 目の前にあるのは何かの肉を使ったステーキのようなものと、皿に乗ったパンがふたつと、白いスープだった。野菜が足りない。
 文句を言える立場ではないので、リアナは素直に食べ始めた。が、向かい側に座っているデュレンのことがとても気になる。彼は頬杖をついて、無言でリアナを眺めていた。
「あ、あの、とても食べづらいです」
「どうして?」
「いや、あの、じっと見られていると……」
「気にするな」
 気になるから言っているのだ。

つづく