淫らな伯爵と灼熱の蜜夜 33

(執筆日:2016年07月28日)

 本日の乗馬の練習を終えて、馬を小屋に戻したところでリアナが問いかけた。
「ところで、デュレンが毎日どこに行っているのか知ってる?」
「デュレン様は狩り人だから、狩りだと思うけど」
「それは私も知ってるんだけど、場所よ。行き先」
 ハリスが首を傾けた。
「さあ? デュレン様は多くを語らない人だから」
「伯爵という立場で他に家族がいないのに、いつも一人で狩りに行っているの? 従者もつけずに?」
「従者は足手まといにしかならないんだよ。デュレン様の邪魔になる」
「そうなの?」
「狩り人は誰でもなれるわけじゃないんだ。それなりの資質を持ってないと、狩り人になる権利さえももらえない。認められて称号をもらって初めて狩り人になれるんだ。デュレン様は信念を持って努力したから狩り人になれたんだよ」
「そうなんだ」
「世界中に狩り人はたくさんいるけど、身近なところにはそんなにいない。本当は狩り人の称号を持つ従者がいればいいんだけど、そこまでの実力の持ち主は誰かの従者になったりしない。狩り人のほとんどが単独行動で、だいたいが報酬のために生きてる。デュレン様みたいに世の中の平和のために狩ってる人は珍しいんだ」
「デュレンは報酬のためじゃないんだ」
「だって貴族は税収で充分暮らして行けるんだから、わざわざ狩り人になって命を懸ける理由ないだろ?」
「なるほど」
 よく考えれば確かにそうだ。デュレンは遊んで暮らせるような立場なのに、わざわざ命を懸けていることになる。いつ死んでもおかしくない、返り討ちにあってもおかしくない世界に自ら飛び込んでいるのだ。
「どうしてだろう。デュレンに何かあったら伯爵家もなくなってしまうのに」
 考え込むリアナに向かってハリスが言った。
「敵討ちなんだよ」
「えっ?」
「デュレン様のご両親は獣に襲われて亡くなったんだ。デュレン様が狩り人になったのも、それからだよ」
 予想もしていなかった話を聞かされて、リアナは驚きに目を見開いた。

つづく