ケータイ電話

(初出:不明 執筆日:2005年05月02日)

 ユミコはさっきからずっと、ケータイ電話でメールを打っている。
 向かい側にはあたしがいて、そんな彼女を眺めながらアイスコーヒーのストローを吸っている。
 長いなぁ。
 カフェテラスで友達と一緒にいるのに、ずっとケータイなんだ?
 ひどい友達だよね。
 送信ボタンを押したユミコは、やっとあたしの方を向いた。
「聞いて! ケータったらヒドイの! もぉ何回もメール送ったのに、ぜんっぜん返事くれないのぉ!」
 そんな風にキレられても、あたしは困るよ。
「忙しいんじゃないの?」
 あたしはいってみた。そしたらユミコはまたキレた。
「そんなわけないじゃん! あいつ今プーなんだよ?」
 プーってのは、プー太郎。ようするに無職の男なんである。
 そんな男とつきあうなよ。
 あたしは冷静にそんな風に思った。
「他に女いるのかもよ? だってイケメンなんでしょ?」
 無責任な発言をしてみた。するとユミコは面白いぐらい反応を見せた。
「そんなの絶対許せない! こないだケータの部屋に、あたしより長い髪の毛があったのよ」
 なんてことだ。ビンゴだったらしい。
 まさか本当に他に女がいたとは。
 でも、あたしには関係ないしね。
「そんな男とは別れちゃえば。男なんて星の数ほどいるんだし」
「絶対イヤ! ケータじゃなきゃイヤなの!」
 困った女心である。
 ムキになったユミコは、ケータイ電話の音が鳴ると慌てたように液晶画面を覗き込む。
「あっ、ケータからだ!」
 メールの返事が届いたようで、とたんに嬉しそうに笑うのだ。
 あたしはなんのためにここにいるのだろう。
 ユミコはなんであたしと一緒にカフェにいるのだろう。
 なんだか現実が遥か遠くにあるように見えた。
 女友達というのは、しょせんこんなもんなのだ。

END
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