(初出:note 執筆日:2015年05月17日)

「あの虹の向こうには夢があるんだ」
彼はそう告げ、遠くを指さした。
目を凝らして見たけども、薄い青に染まる空に浮かぶ虹の向こうには、何も見当たらなかった。
ただ空があるだけだ。
薄い青と少しの白い雲が見えるだけだ。
七色のパステルカラーの虹は、時間の経過と共に薄れていき、やがて見えなくなった。その向こうに夢があるとは到底思えなかった。
「一度行ってみればわかる。あそこには夢があるんだ」
彼の放つ言葉は意味不明で、一生真剣に考えても理解できないだろうと思った。
「じゃあ、水たまりの底には何があるの?」
「空があるんだ。真っ青な空が」
彼はそう言って少し笑い、足下の水たまりを指さした。
「覗いてみればいい。きみは空に放り出されるだろう」
まるで呪いの言葉のように彼は告げた。
水たまりの傍にしゃがみ、そっと覗き込む。急な突風に巻き込まれ、気づいた時には空に放り出されていた。
目の前に広がるのは青、青、青ばかりで、それ以外は白い雲だけだった。
重力に引っ張られるようにぐんぐんすごいスピードで落下していく。
ぼよんとどこかに落ちて弾んだ。
見るとそこには七色に光る虹があった。まるでクッションのように受け止めてくれたのだった。
もしかしたら虹の向こうにある夢に辿りつけるかも?
そんな予感で頭の中がいっぱいになり、虹の上を歩き出した。

END
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