太陽の風・月の空 15

(執筆日:2009年07月24日)

「……できれば、こっちのハンカチにしてもらえない?」
 各務くんが自分のズボンのポケットから、ハンカチを取り出し、私へと差し出してきた。清潔感漂う、ピシッとした綺麗なハンカチだった。
 しぶしぶこれを受け取るしかない。女子のプライドを粉々にされたような、悔しい気分でいっぱいだ。
 各務くんのハンカチで、各務くんの頬の傷を拭く。うーん、なんか納得いかない。
「俺の怪我とかよりも、もっと大変なことが起きてる気がするんだけど。北丘はそのことに気づいてる?」
 真顔で各務くんから問いかけられた。私は反射的にムッとする。
「わかってるけど、怪我だってほっとけないじゃん!」
「こんなのかすり傷だよ。それより、さっきあいつの口から、世界が破壊されるって話を聞いた気がするんだけど」
 改めて各務くんの口から聞くと、よく理解できなかった話が急に現実味を帯びてきた。夢物語かおとぎ話か伝承でも聞いたような気分だったのが、少しの焦りと不安という形で私の中へと押し寄せてくる。
「え、でも……」
 そんなのありえない。世界が破壊? 私たちの暮らしていた世界が? 記憶に蘇るまばゆい光。爆発したような光。一面の光。亀裂の向こう側に消えていった光。
 あの光はいったいなんだったの?
 私たち二人の視線は、オルドと名乗った美青年のほうへと集中した。
 頭から爪先まで、私たちの世界の人間とは違う姿をしている。わかりやすく言えば、中世のヨーロッパの騎士風。マンガや小説で見るような異世界ファンタジー風。
 茶色に染まったストレートの髪は背中まで届きそうなぐらい長い。切れ長の目の中には碧の瞳。肌は白人みたいに白い。でも不思議と言葉が通じている。
 薄手の鎧みたいなものに胴体は包まれていて、腰には剣がある。やっぱり騎士という言葉が一番あてはまった。

つづく
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