太陽の風・月の空 21

(執筆日:2009年08月04日)

 どこかそっけないし、無愛想だし、優しいとは思えない各務くん。だけど、吹っ飛ばされた瞬間には庇ってくれた。今も手を握っていてくれる。
 本当は優しくていい人なのかもしれない。
 オルドを先頭に、各務くんと私が続く。歩いても歩いても森の中。突然来てしまった別世界。森だけを見てみると、異世界のようには感じられなかった。まるで地球のどこかにある森の中のよう。
 みんな無言だった。
 歩いている間ずっと。
 ザクザクと草や小石を踏む音ばかりが響く。
 どこか遠くで聞こえる鳥の声。
 同じく遠くで聞こえる何かの遠吠え。
「黙ってると長く感じるね」
 各務くんが言った。
「うん」
 私が返事をする。
 さらに各務くんが言う。
「何か喋る? 雑談」
「そうだね。できれば難しくない話、したい」
「了解」
 各務くんはそう答え、再び口を開いた。
「北丘はクラスに好きな人とかいるの? 恋愛的な意味で」
「いない」
「なんだよそれ。話が終わっちゃうだろ」
「バスケで忙しくて、それどころじゃなかった」
「女子高生らしくない返事だなぁ。年頃の女子ってのは普通、ガールズトークで花が咲くもんなんじゃないのか?」
「みんなはそうだった。けど私は違った。しょうがないじゃん。バスケが好きだったんだから」
「色気のない女だなあ」
 各務くんに悪態をつかれ、私はつい軽くにらみつけてしまった。

つづく
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