(執筆日:2009年07月18日)
各務くんの表情に、笑顔らしきものは全くなかった。相変わらずの無愛想。だけど視線は、まっすぐに私を見ていた。
「……各務来斗」
「人の名前をフルネームで呼ぶな」
傘の柄の先で、軽く額を小突かれた。大きな傘ではなく、折りたたみの傘だ。
「いたっ」
「痛くはないだろ。軽くつついてるだけなのに」
……なに、この人?
恐ろしく態度が悪いんですけど?
男子に対してと女子に対してでは、こんなにも態度が変わるわけ?
しかも、初めての会話がこれ?
…………。
カッコイイって思ったの却下する!
絶対ゼッタイに却下する!
そう強く心に決めた瞬間、いきなり手をつかまれて、折りたたみ傘を握らされた。
「貸してやる。ありがたく思えよ」
各務くんは明らかに上から目線でそう言うと、あっという間に横をすり抜け、校舎の外へ。土砂降りの中を走り去って行った。
私はポカンとして立ち尽くし、各務くんの背中が消えた雨の中をしばらく見つめてしまった。
……わからない。
理解不能。
今のはいったいなんですか?
はっ。まさか、恩を着せて後で何かを要求するつもりじゃ?
たちまち怖くなって、折りたたみ傘を捨てそうになった。けれど、改めて土砂降りの景色を眺めて、やっぱり捨てるのを断念した。
つづく
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