異世界

見知らぬ世界が広がっていた。

どうやら僕は異世界に飛ばされたらしい。

咄嗟にそう思ったのは、ついさっきまで異世界にトリップするファンタジー小説を読んでいたからだ。

目の前に広がる景色は、広大な土色の大地。草はあまりはえていない。でも砂漠じゃない。遠くのほうには大きな森がある。

僕は立ち上がり、よろめきながら歩き出した。

持っていたはずのカバンがない。読んでいたはずの小説もない。

着ていた制服はそのままだ。

学校の帰り道、ファーストフード店に寄った。

その席で僕は小説を読んでいた。

昨日買ったばかりの、新刊だった。

一ページ目を開いた瞬間だった。

店内を一陣の風が吹き抜けて、気づいた時にはここにいた。

でもこの光景は、あの本の冒頭と同じだ。

一瞬だけ目に入った、一ページ目の文章。

僕がいるこの世界はもしかして。

「…………っ!」

何か気配を感じ、振り返った瞬間、視界に飛び込んだのは、一匹の大きな獣。

鋭い牙がこっちに向かってきた。

もうダメだ……っ。ギュッと目をつむったその時――。

END
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