(執筆日:2016年07月04日)
疲労感が押し寄せて、リアナはいつしか気を失うように眠ってしまっていた。
寝ている間に乱れたドレスも汚れたベッドも綺麗になっていたのだが、誰がやったのだろう。目が覚めた後、リアナは自分の失態に気づいて青ざめた。
客室にはデュレンも使用人たちもいなかった。一人きりでベッドに寝かされていたようだ。今は何時なのだろう。夜なのか朝なのか、それすらもわからない。なぜならこの客室には窓がなかったからだ。
ぼんやりと天井を眺めていると、これまでの出来事はすべて夢だったのではないかとすら思えた。しかし身体の奥に残る違和感はまぎれもなく現実で、まだ何か入っているのではないかと確認したくなった。
リアナは自分が誰なのかわからなくなって、胸に触れてみた。大きかった。Aカップではない。髪を一房つかんで視界に入れた。黒髪ショートヘアではない。
やはり、亜姫ではないのだ。
「こんな形でヴァージンを失うとは思わなかった……」
初めては愛する人と。最低限それだけは守りたかった。出会ったばかりの強引な男とするつもりなんてなかった。確かに伯爵家の当主で若くて整った顔をしている。命の恩人でもある。だからと言って、やりたい放題していいことにはならない。
思い出すと頬が赤らむ。相当恥ずかしいことをたくさんされてしまった。見られたくない場所を見られ、触れられたくない場所を自由にされ、彼のものだと刻みつけるように執拗なほど犯された。
媚薬でおかしくなっていたとは言え、ひどい失態だ。どうして言いなりになってしまったのだろう。もっと抵抗するべきだったのでは。
考えこんでいると、いきなり客室の扉がノックされた。驚きのあまり返事をしなかったのだが、扉は躊躇なく開かれた。
「お加減はいかがでしょうか」
入ってきたのは赤毛のタニアだった。相変わらず無表情だ。
リアナはベッドの上で上半身を起こした姿勢で、焦りながら口をパクパクとさせてしまったのだが、咳払いをしてなんとか気持ちを落ち着かせた。
「あ、あの、私が寝ている間にいろいろ綺麗にしてくれたのは、あなたかしら」
「いいえ」
即答だった。
「おそらくイーシャではないかと」
「そ、そう……」
どちらにしても失態をさらしたことになる。リアナはどこかに隠れたい気持ちになった。
はーっとため息をついてから、リアナは顔をあげた。
「あの、今何時ですか?」
タニアがきょとんとした。
「何時、とは?」
「えっと、時間……」
「時間、とは?」
「えっと、時刻……」
「時刻、とは?」
らちがあかない。
「今が朝か昼か夜かを教えて」
「昼間でございます。夜が明けてからだいぶ経っております」
「そ、そう。ありがと」
そんなに寝ていたのか。リアナは驚いた。そしてこの世界には、何時何分という概念が存在しないらしい。