(執筆日:2016年07月07日)
「あの、デュレンはどこへ?」
気になるので問いかけてみた。
「狩りにまいられております」
「もしかして、昨日の森へ?」
「さようでございます」
それまで淡々と答えていたイーシャが、じっとリアナを見据えた。
「リアナ様お美しい」
「へっ?」
「タニアにはお気をつけくださいませ。彼女はデュレン様をお慕いしております。今はおとなしくしていますが、いつか嫉妬の炎を向けられるかもしれません」
「えっ?」
「余計なことを言いました。これからは口を慎みます。では、タニアが呼びに来るまで、もうしばらくお待ちください、リアナ様」
イーシャはそう言うとメイク道具のカゴやナイトドレスを手に持ち、客室から出て行った。
しばらく経つとタニアが現れた。相変わらず無表情で、これまでと変わった様子はない。
彼女の案内で廊下を歩いて食堂まで行った。到着するととても広い部屋で驚いた。
横に長い大きなテーブル。たくさん並んでいる椅子。いったい何人が座れるのだろう。そんなテーブルの片隅に、ちょこんと豪華な食事が乗っていた。
この広い部屋で、たった一人で食べるらしい。心細くなった。
タニアが、デュレンがこの食堂で食べるのを好まないと言っていたのを思い出した。確かにこの広い場所でたった一人で食べるのは居心地が悪いだろう。祖父母も両親もいないらしいデュレンには、兄弟もいないのだろうか。この城に住む貴族はデュレンだけなのだろうか。
いろいろと疑問はあったが、タニアには訊かずに食卓についた。
タニアは一礼して食堂からいなくなってしまう。本当に、たった一人きりだった。
「これは寂しい」
デュレンはずっと一人きりで食事をしていたのだろうか。ここで食べない時はどこで食べていたのだろうか。そんなことを思いながら、リアナは食事を口に運んだ。
「料理は豪華だし、味も一流だけど……」
リアナは複雑な思いを巡らせた。デュレンだけの城。デュレンだけのすべて。
コルセットはやはり苦しかったが、完食することはできた。
食事が終わってからは扉の外で待機していたタニアをつかまえ、城の中を案内してもらった。使用人や料理人や兵士たちは城の近くにある宿舎のような建物で寝起きしていることを知って驚いた。この城で暮らしているのはデュレンとリアナだけらしい。
広く大きな城に、ずっとデュレンは一人でいたのだ。リアナが来るまでは。
とはいえ、朝も昼も夜も誰かしら城にはいるようで、彼らが宿舎のような建物に戻るのは基本的には就寝の時だけらしい。交代で城の近辺を見張る兵士もいるので、完全に城の中がデュレンだけになることもないのだろう。