淫らな伯爵と灼熱の蜜夜 26

(執筆日:2016年07月07日)

 城の地下に広くて大きな書物庫があったので、リアナはタニアと別れてそこに入り浸ることにした。空調管理がどうなっているのかよくわからなかったが、息苦しくはなさそうだった。
 ほぼ亜姫の記憶しかないリアナだが、不思議なことに日本語ではない文字も問題なく読めた。記憶はないものの、貴族の娘として育ったリアナは十八歳まで勤勉だったようで、どの書物の背表紙も普通に読める。ありがたかった。
 本がたくさんあるので、どこから手をつければいいのかわからなかったが、歴史書の雰囲気を醸し出している辞書のような分厚い本を手に取った。
 表紙を開いてみると、この世界の歴史が書かれているようだった。創世記から始まっている。歴史というより神話に近い、史実と空想が入り混じったような不思議な世界が描かれていた。
 これを読むのは骨が折れるぞと軽いめまいを覚えたが、この国のことやこの世界のことを少しでも知っておかないと生き抜いていけないような気がした。嫌でも勉強しなければ。リアナはそう心に誓った。
 まずこの世界は、丸い惑星ではなく、平らな一枚板のようになっているらしい。実際は地球と変わらない惑星だろうと思うのだが、本ではそういうことになっている。星が自転しているのではなく、空が動いて朝や夜が来ると信じられているようだった。
 リアナはパラパラと雑にページをめくって、この国に関する項目を探した。先ほどタニアに聞いたところによると、この国の名前はフィレントニアという。とても広い国で、昔は他国との戦も多かったようだ。領地を取ったり取られたりしているうちに、今の大きさで落ち着いたらしい。
 普通の動物たちが獣と呼ばれる獰猛な生き物になったのはここ数十年の話で、それと共に狩り人という職業も生まれたようだ。どうしてデュレンは伯爵家の貴族なのに、狩り人になったのだろう。
 RPGゲームの世界なら、王様や貴族は城で待っていて、手柄をあげた勇者に褒美をやる存在だ。この世界をゲームと一緒にするのは危険だが、デュレンが狩り人になる必要はなかったのではないか。強い狩り人を雇うだけでよかったのではないのか。
 あんな恐ろしい生き物と何度も戦うなんて、いつ命を落としてもおかしくない。
 森で出会った狼を思い出し、リアナは自分の腕を抱きながらブルっと震えた。

つづく