(執筆日:2016年07月26日)
もともとリアナは馬に乗れるようなのだが、亜姫には乗馬の知識がないので、ハリスに習うことにした。人懐こい少年は人に何かを教えるのも好きなようで、喜んで指導してくれる。
「でもリアナ様、俺のとこばかりいて大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
リアナはきょとんとした顔で問い返す。
「だって、デュレン様のお嫁さんなんだろ? 他の男とばかり一緒にいたらマズイんじゃないの?」
「他の男?」
リアナがぷっと吹き出した。まだ十三歳のハリスを男として意識したことなど、まったくない。だが正直にそれを言うとハリスが気分を害してしまうかもしれないので、黙っておく。
「まだお嫁さんと決まったわけではないのよ。デュレンが勝手にそう決めただけで、私はまだ承諾してないの」
「えっ、そうなんだ?」
ハリスが驚き目を丸くした。
「どうして承諾してないの?」
「どうして……?」
「デュレン様のどこがダメなの?」
「どこが……?」
リアナは考え込むように首を傾けた。
「うーん。どこがダメというより、まだお互いのことよく知らないし、恋とか愛とか、まだそういう感情になってないし。それにまだ出会ったばかりだし」
身体の相性は悪くなさそうだけど……と考えて、リアナは顔を赤くした。
「顔真っ赤だよリアナ様」
「み、見ないでっ」
顔の前で両手をぶんぶんと振り回した。
ハリスが改まったようにリアナを見る。
「でも俺はデュレン様をおすすめするよ。強いしかっこいいし男前だし。逃したらもったいない魚だよ。伯爵様だし」
「そ、そうよね……」
条件的にはこの上なく素晴らしい。もはやみなし子のようなリアナにとって、感謝しなければいけないような状況だ。普通なら喜んで飛びつく物件だろう。
迷いがないと言ったら嘘になる。迷っている。激しく迷っている。だからリアナはどこにも逃げずに、おとなしくここで暮らしているのだ。