淫らな伯爵と灼熱の蜜夜 12

(執筆日:2016年06月27日)

「ではお手伝いしてよろしいのですね?」
 タニアが淡々と告げ、リアナのドレスを脱がしはじめた。
 恥ずかしくてどこかに消えたい気持ちを必死で押し殺す。貴族という立場ならきっと当たり前のことなのだ。使用人に脱がされ、使用人に洗われ、使用人に着せてもらう。心理的な抵抗は激しかったが、この世界ではこれが普通のことなのだ。
 全裸にされたリアナはタニアの案内で浴場へと連れて行かれた。温泉が出るということなので、電気やガスの設備もない世界だが、いくらでも湯を使えるのだろう。
 浴場の床はすべて大理石で敷き詰められていた。浴槽は床に埋め込まれており、どうやらこれも大理石らしい。一人で入るには少し広い。二人以上で入ることを想定して作ったようなサイズだ。
 リアナはゆっくりと浴槽に身を沈めた。
「それではごゆっくりお浸かりくださいませ。私は浴場の外で待機しておりますので」
「あ、はい……」
 洗ってくれるわけではなかったらしい。リアナは慌ててタニアを呼び止めた。
「あのっ」
「はい」
「洗うにはどうしたら」
「洗う?」
「そう。石鹸とかで全身をゴシゴシと」
 タニアが不思議そうな顔をした。
「子爵家ではそのようなしきたりになっているのですか?」
 どうやら洗うという習慣がないらしい。
「……あ、わかりました。では、外で待機していてください……」
「かしこまりました」
 タニアが事務的な返事をしてさっさといなくなった。リアナは疲れたように深く吐息する。
「温泉に浸かるだけなのね……」
 仕方がないので、湯に浸かったまま素手で自分の腕や足を撫でた。髪も汚れているはずなので、思い切って頭のてっぺんまで湯に沈む。
 生き返った気がした。
 ボディシャンプーやシャンプーやトリートメントが懐かしい。そういうものがない世界で生きることになるとは思ってもみなかった。
「……頑張れ、私。覚えてないけど、十八年もこの世界で生きてたんだから」
 平凡で平穏な普通のOLに戻りたい。電気やガスがあって、電車や車のある便利な世界。当たり前のようにあったそれらを、こんなにも恋しくなるとは思いもしなかった。
「帰れるものなら帰りたい……」
 しかしもう、帰ることなどできないのだ。

つづく