淫らな伯爵と灼熱の蜜夜 13

(執筆日:2016年06月27日)

 初めのうちは今の状況を嘆いていたが、やがて時間も忘れて湯に浸かっていた。
 狼に囲まれた辺りからゆっくりできる時間がなかった。いろいろなことがありすぎて心も身体も疲労困憊だ。温泉ぐらいはのんびり浸かっていたかった。
 脱衣所で待機している使用人のことも脳裏にはよぎったが、あんまり急ぐ気にもなれない。なぜあの二人はあんなにも愛想がないのだろう。客人扱いされていないのだろうか。
「……まあいいか」
 しばらく世話にはなるが、ずっとここにいるつもりもない。フレングス家がなくなってしまったのが本当だとしても、いつまでも他人の家に居座るのもよくないだろう。一人で生きていける自信はまったくないが、こうなったらできるところまでやっていくしかなさそうだ。
 デュレンは悠司によく似ているが、だからと言ってすぐに好きになるほどおめでたくはない。亜姫がリアナに生まれ変わったように、悠司がデュレンに生まれ変わった可能性はあるだろうかと考えて、慌てて頭を振った。いくらなんでもそれは都合がよすぎる。
 それに、デュレンと悠司では性格がまるで違う。悠司はもっと優しくて穏やかでいい人だった。……ふられたけれど。
「まずは、ここがどんな世界なのかを、知るところから始めるしかないかな。いろいろわかったら……頑張って一人で生きていこう。仕事を見つけて、住まいを見つけて、地味でも細々と、平凡だけど平穏な人生を」
 そう心に決めたところで、リアナは浴槽からあがった。
 脱衣所へ向かうと、タニアとイーシャが律儀に待っていた。それほど親しくないのか、私語を交わしている様子もなかった。
 リアナはタニアが差し出した布にくるまれ、全身の水分を吸い取られる。やはり拭く作業も着る作業も、使用人に手伝われるのが当たり前の世界なのだろう。
 いや、自分でやります。そう言いたい気持ちをグッとこらえ、リアナはされるがままになった。
「こちらがお召し物になります。亡き奥様のナイトドレスでございます」
 イーシャが純白で薄い生地のシンプルなドレスを差し出してきた。
 ようするに貴族の女性の寝間着ということらしい。
「デュレン様は渋っておられたのですが、他に貴族の女性用の衣類が見当たらないので、仕方なくこちらを、と。明日になれば使いの者が馬車を走らせ、新しいドレスを購入してまいりますので」
 買ってくれるんだ。内心で嬉しくなったが、素直に喜んでもいいものなのか悩んだ。デュレンとは偶然出会っただけで、命を助けてもらった上に、そこまでしてもらう義理がない。しばらく泊めてもらえるだけでも、ありがたいぐらいなのだ。
 それ以外に服がないのならと、リアナは素直に着ることにした。
 足首が隠れるほどのロングドレスなのだが、腕やデコルテなど上半身の露出が妙に多い。亜姫と違ってリアナは胸も豊かなので、危うくこぼれてしまわないかとヒヤヒヤする。
 シルクのような肌触りで心地いいのだが、最大の問題は下着をつけていないことだった。
 ボロボロになったドレスを着ていた時は、確かドロワーズという下着をつけていたはずだが、この世界では寝る時に何もはかないのが普通なのだろうか。
 リアナは内心で激しく葛藤したが、きっとこういうものなのだと、努力して受け入れることにした。

つづく