淫らな伯爵と灼熱の蜜夜 16

(執筆日:2016年06月29日)

「じゃあ、ベッドへ行くか」
 デュレンが椅子から立ち上がった。
「は?」
 今、何かおかしな言葉を聞いたような。リアナは聞き間違いかと思い、穴が空きそうなほどデュレンを見つめたが、彼は至って真顔だった。
「俺もこの年だから、そろそろ妻をめとらなければならない。祖父母も両親も亡き今、ミラファ家の血筋を絶やすわけにはいかないからな。おまえなら子爵家の娘だし、フレングス家が壊滅した今、余計なしがらみもないし都合がいい」
「えっ?」
 デュレンはいったい何を言っているのだろうか。理解が追いつかなかった。
「俺が何の下心もなくおまえを連れ帰るとでも思うか?」
「えっ、だって、だって、そんな素振り微塵もなかっ……」
 ドクンッと鼓動が跳ねた。
「あ、れ……?」
 心臓がバクバクと弾んでいる。妙な違和感があった。全身から力が抜けていくような。
「そろそろ効いてきたな」
「えっ?」
 身体が熱い。ぞくぞくとした疼きが下半身に集まっていく。これは、まさか。
「料理に、何を入れたの……?」
「心配するな。ほんの微量の媚薬だ。命には影響ないし、後遺症もない」
「えっ……」
 やられた。リアナは頭を殴られるほどのショックを受けた。命の恩人だからと、信用しすぎていた。手足がガクガクする。椅子から立ち上がろうとすると、崩れ落ちそうになった。咄嗟に手を伸ばしてきたデュレンに支えられる。
「……あっ……」
 変な声が出た。動揺と恥ずかしさで消えたくなる。
「や、あっ……」
 室内にあるベッドのほうへと引っ張られて行く。リアナは抵抗を試みたが、身体がふにゃふにゃしてきて力が入らない。どさりと仰向けでベッドに倒された。
「悪いが観念してくれ」
 デュレンが自分の襟元に手をかけた。衣類のボタンをはずしはじめる。
「……まっ、待って……」
 リアナは動揺と焦りで目を白黒させた。
「壊滅したフレングス家の娘を妻にしても、メリットが何もないわ。何の得もしない女を手に入れてもしょうがないじゃない……っ」
「壊滅しても子爵家の娘には違いない。政治的な価値はないが、女としての価値はある。貴族の血を引く子供は産めるからな」
「子爵家の娘という嘘をついてるかもしれないじゃない……っ」
「嘘ではないことぐらいわかる。なぜなら、一度だけだが、俺はおまえの顔を子供の頃に見ている」
「えっ……」
 会ったことがあったのか。リアナは純粋に驚いた。

つづく