(執筆日:2016年07月10日)
書物庫にこもって本を読みふけっているうちに、相当時間が過ぎて行ったようだ。地下で窓がないので、また昼なのか夜なのかわからなくなってしまう。
ざっと見ただけでも何百冊もありそうなので、ここにあるすべての本を読破するのは難しそうだが、どうせ何もすることがなくて暇なのだから、知識を仕入れたほうが建設的だ。
おかげでこの世界のことが少しわかってきた。
文化やしきたりなど、まだまだ知らなくてはならないことは多いだろう。
ギイイと扉のきしむ音がして、驚いたリアナは慌てて振り返った。すると、険しい表情のデュレンと目が合った。
「ここで何をしている」
「勉強です」
「誰が入っていいと許可した」
「勝手に本を触ったことは謝ります。ごめんなさい。暇だったから勉強しようと思って」
「俺の妻になるなら、子を産み母となればいいだけだ。余計な知識も勉強も必要ない」
「必要とか必要じゃないとか、そういう問題じゃなくて、知りたいことがたくさんあるんです。それに、まだ妻になるとは言ってません」
デュレンと真っ向から対峙した。
殺気立った気配を感じるのは、デュレンが狩り人として獣と戦ってきた後だからなのだろうか。よく見ると手にもうっすらと傷がある。頬や髪にも土汚れがついている。
「青狼と戦ったんですか」
「惜しいところで逃げられた」
目標の敵はそうやすやすとは捕まってくれないようだ。
「来い」
ガシっと腕をつかまれ、引っ張られた。リアナはつんのめりそうになりながら、半ば引きずられるように小走りになる。書物庫から出て廊下を進んで行く。
「ちょっ……乱暴にしないで」
大股で歩くデュレンについて行くには、小走りになるしかなかった。歩幅すら合わせてくれない男の後頭部をにらみつけたが、腕を振り払う勇気はなかった。殺気を纏うデュレンが少し怖かったのだ。
行き先は浴場だった。脱衣所でようやく腕を離され、リアナは痛む箇所をそっとさする。
「どうしてこんなところに」
「脱げ」
「は?」
「これから俺は風呂に入る。おまえも入れ」
「はあ?」
いったいどういうことなのか。リアナは自分の耳を疑った。
「一緒になんて入りませんけど」
「脱がないならそのまま連れて行くぞ」
そう言いながらデュレンはどんどん服を脱いでいく。目のやり場に困ったリアナは、慌てて脱衣所から出て行こうとした。しかし再び腕をつかまれ、また強引に引っ張られた。