(執筆日:2016年07月29日)
イーシャに城内に連れ戻され、浴場へと強制的に連れていかれた。
全裸で湯船に浸かりながら、リアナはデュレンのことを考えた。
もう一週間もここにいるのに、デュレンからは何も聞いていない。ふたりきりになった時はほぼ情事に雪崩れ込むので、真面目な会話など成立しないからだ。
ハリスがよく喋る子だからいろいろ知れたが、そうでなければリアナは今でも何も知らないままだっただろう。
出会って間もないのだから、デュレンがベラベラと生い立ちを話すのも違和感はあるが、妻にしようとしている相手に何も言わないというのもいかがなものだろう。
はあ、とリアナはため息をついた。
「伯爵家が途絶えないための、子供を産む女しか必要じゃないのかもしれないなあ……」
そう考えると果てしなく落ち込みそうになった。自分の存在価値はそれだけなのか。
壊滅したとはいえ子爵家の娘として生まれ、美しい容姿にも恵まれた。もっと幸せになってもいい人生のはずだ。これなら平凡なOLのほうが、遥かに自由で快適だった。
「……逃げちゃおうかな」
今なら馬も自由自在に乗りこなせる。
もともと城を出て自立するつもりだった。新しい仕事を探して、住まいを見つけて、なんとか一人で生きていくつもりだったのだ。
ハリスからはデュレンを支えて欲しいと言われたが、リアナがそうしなければならない義理はない。確かにデュレンは命の恩人だが、身体を好き放題扱われたのだからプラマイゼロだ。
「タニアがデュレンを好きだというのが本当なら、私でなければならない理由もないし」
そこのところはまだ確認していないので実際どうなのかはわからないが、自分よりもデュレンを好きな相手と結ばれたほうがいいような気がするのだ。
浴場を出ると脱衣所でイーシャが控えていた。全身に水を吸い取るための布を巻かれ、丹念に拭かれる。こんな風にされることにも少しは慣れてきた。
「ねえ、イーシャ」
「はい」
「欲しいものがあれば使用人が買いに行ってくれるって言ってたわよね」
「ええ」
「さっき私が着てた、デュレンの昔の服みたいなものが欲しいの。デュレンの服をずっと無断で借りてるのもよくないと思うし」
イーシャがしばらく無言になった。
「……リアナ様にはずっと美しいドレスをお召しになっていていただきたいのですが」
「お願い。動きやすい服が欲しいの」
イーシャに向かってリアナは拝んだ。彼女は渋い表情になったが、しぶしぶ承諾した。
「ですが、今日は綺麗なドレスを着ていてくださいね」
「はあい」
ドレスと言ってもパーティで着るような華やかなものではなく、室内着だ。貴族というものは年がら年中こんな窮屈な姿でいなくてはならないらしい。夜は夜でナイトドレスを着なければならないようだし。リアナは肩が凝りそうだった。