(執筆日:2016年08月04日)
その後、食事を摂ることになったのだが、広い食堂でたった一人で食べるのも飽きてきたので、タニアを呼んでもらった。
一緒に食べようと誘ってみたのだが、呆気なく断られてしまった。
「使用人がリアナ様と同じテーブルで食事を摂るなんて、あってはならないことです」
「そ、そうなんだ……」
リアナは一緒に食べるのを断念して、とりあえず食事中の話し相手になってもらうことにした。タニアは食事するリアナの傍で所在なげに立つ。座るよう促したのだが、頑なに座らない。リアナは諦めてそのまま話し始めた。
「風の噂で耳にしたんだけど、タニアはデュレンのことが好きなの?」
単刀直入に訊いてみた。我ながらストレートすぎたかなと思ったが、遠回しに訊くのもまどろっこしい。
タニアは驚いたように目を見開き、その場で固まってしまった。心なしか青ざめている。
「どこでその話を」
「だから、風の噂で」
イーシャから聞いたとは言えなかった。
「申し訳ございません」
タニアがいきなり土下座した。リアナは面食らう。非難しているわけでも責めているわけでもイジメているわけでもない。なぜ謝られなければならないのかわからなかった。
「えっ、どうして謝るの?」
「リアナ様という方がいらっしゃるのに、使用人がデュレン様に心を寄せるなど、あってはならないことです。ずっと誰にも知られないようにひた隠しにしていたのに」
誰にも話したことはないということか。では、イーシャは気配で察したのだろうか。
「待って。怒ってるわけでも、責めてるわけでもないの。ただ、タニアがデュレンのことを好きなら、デュレンに告白してみてはどうかと提案したかっただけなの」
「え……?」
顔を上げたタニアは、この人はいったい何を言っているのだろうと言いたげな目でリアナを見た。どうやら自分はおかしなことを言っているらしい。
「えっと……私、何か変なこと言ってる?」
「私が告白したところでデュレン様は見向きもされません。そのことは重々承知しております。そんな大それた真似はできませんし、デュレン様が受け入れてくださるはずもありません。使用人はあくまでも使用人でしかないのです。貴族にはなれません」
「え、あ、そ……そうなんだ……」
どうやらリアナは無知すぎたらしい。勉強したつもりでも、この世界のことはまだまだわかっていなかったようだ。
「でも、私だって貴族と言っても、もう滅びてしまった没落貴族だし。貴族だと証明するものなんて何も持ってないし、家族だってもう誰もいないし」
「デュレン様が貴族と認めておいでなら、間違いなく貴族なのですよ、リアナ様」
「…………」
おかしな空気になってしまった。タニアを励ましてデュレンに気持ちを伝えるよう促したかったのだが、そんな感じにはなりそうになかった。むしろ自分が貴族という身分を振りかざした嫌な女になってしまったような気がする。