(執筆日:2016年08月07日)
眠るデュレンの顔は思っているよりもずっとあどけなかった。身体は大人のくせに、とリアナは心の中でひとりごちる。
改めて見つめてみると、なんて整った顔立ちなのだろう。睫毛が長く、鼻筋も通り、唇も形がいい。
久しぶりに西岡悠司を思い出した。顔は似ているが、年齢や性格が違うせいか、似ていないようにも見える。
私は西岡さんのどこを好きだったのだろう。リアナは頭の中で自分に問いかけた。彼を好きだったことも遠い昔のようで、曖昧な記憶になってしまっている。
デュレンのまぶたがぴくりと動いた。ゆっくりと開かれる。どこかぼんやりとした眼差しで、そっとこちらを見た。
「大丈夫?」
リアナが問いかけると、デュレンは無言のまま小さく頷いた。
「こんなことは何度でもある。珍しいことではない。生きて帰ることさえできれば、瀕死でもどうにかなる。司祭の力を見ただろう? あの完璧なまでの治癒魔法を」
なんでもないことのように言われ、リアナはショックを受けた。
「で、でも、あなたはこの伯爵家の当主で、他に家族がいなくて、もしものことがあったら……」
「ミラファ家がなくなれば、他の土地から別の貴族が来て統治するだけだ。使用人たちは新しい職に就き、町で暮らす者たちの生活も変わらない。ただミラファ家がなくなるだけだ。だが、おまえが俺の子供を産めば、ミラファ家はなくならない」
「ちょっと待ってよ。私にはこの町を統治する能力なんてないんだから。勝手にいなくならないで。責任を押しつけないでよ」
リアナが怒るとデュレンが不思議そうな顔をした。
「だから生きて帰って来たじゃないか。俺はいつだって生きて帰って来るつもりで狩りに行っている。命を投げ出す気などさらさらないぞ」
「でも、命を大事にはしてないじゃない」
「では増え続ける獣を見て見ぬふりしろと? 今以上に増えたら町もいつか襲われる。国ごと滅びる日が来るかもしれない。そうなった時では遅いから、今狩っているんだ」
「そもそも、獣はどうして増え続けているの? 増えるメカニズム……仕組みはどうなっているの?」
デュレンが深いため息をついた。
「それがわかれば苦労はない」
互いの間に沈黙が降りた。デュレンがベッドから手を差し出してくる。リアナは慌てた。
「今日はやらないわよ」
「そこまで回復してないぞ、俺だって」
「じゃあ何?」
「手を」
「手?」
リアナが手を差し出すと、デュレンがぎゅっと握った。
「落ち着く。ずっとこうしてろ」
急に恥ずかしくなって、リアナの頬が赤く染まった。