(更新日:2018年04月11日)
「よく知りもしないで余計なことを言ってごめんなさい……」
リアナは果てしなく落ち込んだ。デュレンが少し慌てる。
「いや、俺は怒っているわけではなくて」
「少し頭を冷やします」
そう言って立ち上がろうとしたが、デュレンが手を離してくれなかった。
「ここにいろ」
「でも」
いたたまれない。リアナが手を引こうとするが、デュレンがしっかりと握ってくる。
「いいから、ここにいろ」
「……はい」
リアナは立ち去るのを諦めて、腰掛け直した。デュレンはリアナの手を握り締めたまま、再びまぶたを閉じた。
「俺の母は、俺が十歳の時に亡くなった。幼い頃、なかなか寝つけなかった俺に、こうして手を握ってくれていた。それを思い出すんだ。だからここにいろ」
リアナの胸の奥で、切なさが疼いた。
「おまえはどうなんだ。ここに来てから家族の話をしないが、何かそういう思い出はないのか」
リアナは内心でぎくりとした。十八歳までの記憶がないことを話していなかったことを思い出す。
「……家族のことは……つらくなるから思い出したくないの」
「そうか。悪いことを聞いた」
デュレンはまっすぐだ。今更ながらに気づいた。強引だし横暴だし無愛想だが、決して悪い人ではない。だからリアナはためらうのだ。この手を振りほどくことに。もっと嫌な奴だと思っていた。怖い人だと思っていた。だが、知れば知るほど最初の印象とは違う顔が見えてくる。
身体もむりやり奪われたと思っていたが、本当にそうだったのだろうか。気持ちのどこかでは、本気で嫌がっていなかったのかもしれない。嫌悪よりも快感を覚え、気づけば身を委ねていたのはリアナのほうではなかったのか。
何を思ったのか、デュレンがリアナの手を持ち上げ、唇に近づけた。
そっと手の甲に口づけられ、リアナはどきりと肩を震わせる。
「きゅ、急に、なに、を」
「リアナ」
デュレンの瞳に吸い込まれそうになった。
「俺に口づけをくれないか」
「……え」
デュレンの唇に目が釘付けになった。おかしな気分だ。頭の中がふわふわとする。今は媚薬なんて飲んではいないはず。
何かに引き寄せられるように、リアナはゆっくりと身を屈めた。
何をしているのだろう。自分でもよくわからない。だが、抗えない引力に引っ張られるかのように、リアナの唇はデュレンの唇を覆っていた。
つづく