(執筆日:2016年06月25日)
木に繋がれ待機している馬が一頭いた。
茶色の毛並みですらりと引き締まっている。主にとても似ていた。
デュレンはリアナを馬の近くまで運ぶと、そのまま背に乗せた。当たり前のように行動され、リアナが慌てる。
「あのっ、私をどこに連れて行く気……」
「うちの屋敷に決まっている。一人でこんなところにいたら、そのうち死ぬぞ」
死ぬぞと言われて、リアナはサーッと青ざめた。
おとなしくなったリアナの後ろに、デュレンも慣れた様子でサッと乗る。腕の間にリアナを挟んで手綱を握り、ゆっくりと歩き出した。
急にいろいろあって軽いパニックに陥っていたリアナが、ふと疑問を口にする。
「あの、あなたはどうしてこんな場所にいたんですか?」
「狩り人だからだ」
「……狩り人……?」
首をかしげるリアナに、デュレンはそれ以上説明をしなかった。
馬の歩に揺られながら、リアナは遠くの地平線を見つめる。
「狩り人ってなんですか?」
「そんなことも知らないのか」
呆れた口調で返された。リアナはたちまち恥ずかしくなったが、知らないものはしょうがない。
「狩り人とは、その言葉の通り、狩る者のことだ。俺の場合は獣を狩る。狩り人の中には人間を狩る者もいる。人間を狩るのは違法だが、どこの世界にも金になるなら何でもやる奴はいる。通常は獣を狩り、その数の報酬を得る。例えばさっきの狼なら、五頭分の尻尾を証拠として持って行けば、金貨や銀貨と引き換えられる。ただし、依頼がなければ狩ったところで報酬にはならない。あくまでも依頼ありきなんだ。俺が狩るはずだった青狼はもっと森の奥にいたはずで、おまえと出会ってしまったから狩り損ねた。また後日行き直さなきゃならない」
「……ごめんなさい」
つい反射的に謝ってしまった。
「青狼って、さっきの狼とは違うんですか?」
「毛色が青みがかっていて、もっと獰猛だ。狩り人が狩る獣は普通の動物ではない。何かの力で獰猛に変異してしまった動物のみだ。人々の生活が脅かされるから狩るしかない」
言われてみれば先ほどの狼も、普通の狼とはどこか違って見えた。野生の狼でもあれほど獰猛ではないだろう。違和感の正体はそれだったのだ。
例えるなら、テレビゲームに出てくるモンスターだ。ロールプレイングゲームの城や町の周辺で、牙をむいてくるモンスター。プレイヤーは主人公の勇者をコントローラーで操り、向かってくるモンスターたちと次々戦う。
デュレンの言う狩り人とは、きっとそういうものなのだ。
リアナは心の中で納得し、同時にぞわりと怖くなった。ついさっきまで、そんなものがいる森でうろうろしていたのかと思うと、恐ろしさしかなかった。
デュレンと出会わなかったらどうなってしまっていたのか。考えると震えが止まらなくなった。