花嫁は魔法の甘い蜜に酔わされる 11

(執筆日:2014年10月14日)

 食事部屋を後にし、先を歩くファルザスの後にひっそりと続く。リリアの心臓はバクバクと鳴り響き、とても平静ではいられなかった。
 廊下を歩く間、何度か辺りを見回したが侍女のミンの姿はどこにもなかった。他に仕事があるのか、あるいは気をきかせているのか。
 ファルザスの背中はしなやかで男らしかった。歩く速度は早く、必死でついて行かないと置き去りにされそうだ。いっそ歩くのをやめてみようかという考えが、リリアの脳裏をよぎった。
 まるでその考えを読み取ったように、ファルザスが突然振り返る。驚いたリリアの鼓動がドキリと跳ねた。
「着いたぞ。ここが私の部屋だ」
 ファルザスが扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。先に入るよう促され、リリアはしぶしぶ足を踏み入れた。
 部屋は広かったが、室内の様相はリリアの部屋とはまるで違っていた。華やかさはなく、落ち着いた色合いで占められている。ベッドには天蓋があるものの、リリアのベッドのような明るいレースや可愛らしい布ではなく、大人の男なのだと改めて思い知らされるような質感だった。
「きゃあっ」
 いきなり腕に抱き上げられ、ベッドへと運ばれる。急なことで慌てるリリアにはお構いなしで、ファルザスは歩を進めた。
 ドサッとベッドの上に置かれ、リリアは思わず後ずさる。ファルザスは膝をベッドに乗り上げさせ、そのままあがってきた。
「こっ、こないでっ」
 リリアは反射的に叫んでいた。驚いた眼差しでファルザスが彼女を見つめる。
「今更こないでと言われるとは思いもしなかったな」
「や、や、や、やっぱり無理ですっ。嫌ですっ。まだあなたのこと何も知らないのに、身体が先なんて、そんなの嫌ですっ」
 リリアはベッドの上ギリギリの位置までさがり、今にも泣きそうな顔でかぶりを振った。しかしファルザスはそんな彼女を冷静な眼差しで見つめ、小さく吐息しただけで引き下がろうとはしなかった。
「怖いのは初めだけだ。じきによくなる」
 そう告げると、ファルザスはリリアの素足を掴まえ、顔を寄せた。
 つま先や足の甲に優しく口づけられ、リリアの喉がひくりと鳴る。ファルザスの唇は、足首やかかとまでまんべんなく這った。リリアは硬直したようにその場から動けず、足に口づけるファルザスを見つめることしかできなかった。

つづく