(執筆日:2013年7月23日)
新たにリリアの侍女となったミンについて行く。階段をあがると、広い廊下に出た。部屋がいくつもあり、どの扉にも豪華な装飾が施されている。
外から見た時にはおどろおどろしかった城だが、中に入ってみるとごく普通の城だった。そのため、リリアの警戒は最初よりはだいぶ緩み、新たな生活はそんなに悪くないものかもしれないと思い始めていた。
今のところファルザスと御者とミン以外の誰とも出会っていないが、これまで頭の中で思い描いていた魔族像と、実際の彼らは随分と違っていた。リリアたち人間とさほど変わらない姿形だったことを嬉しく思い、違いは彼らが不思議な力の持ち主だったことぐらいか。慣れてしまえば、そのうち気にならなくなるだろう。リリアはそう自分に言い聞かせ、この城での生活に早く馴染みたいと切に願った。
やがて特別豪華な装飾を施された扉の前に到着し、ミンが足を止めた。
「こちらでございます、リリア様」
ミンが扉を開くと、広く豪華な部屋が目の前に飛び込んだ。
リリアが生まれ育った城内にある自分の部屋よりも、ずっと豪華だった。
どの王族や貴族でも、ここまで広く豪華な部屋はなかなか用意できないだろう。
一人で寝るには大きすぎるベッドには、華やかな天蓋とレースのカーテン。部屋の窓枠には凝った彫刻。室内に備えつけられている家具も、腕の立つ職人による作品のような出来栄えで、リリアは目を輝かせた。
「なんて素敵なの!」
「ファルザス様の命により整えられた部屋でございます」
ミンがにっこりと微笑んだ。
リリアは喜んで部屋に飛び込み、室内のあちこちを探索した。室内には他にも扉があり、ミンが開けて見せた。
「こちらの部屋には数々のドレスが揃っております。これらもすべて、ファルザス様の命により集められたものです」
「まあ」
リリアは再び目を輝かせ、ドレスや装飾品で埋め尽くされた部屋を見つめた。
「お父様だって、ここまでしてはくれなかったのに」
「リリア様はファルザス様のお妃になられる方ですから」
当然のことのようにミンが言い、リリアはふと我に返った。
忘れていたわけではなかったが、自分はここに嫁いできたのだ。故郷の国を守るために。
魔王ファルザスは見目麗しい美青年だが、夫婦になると思うと実は内心で抵抗がある。
出会ったばかりでどのような人かよくわからない。恋をしている相手でもない。彼と口づけを交わし、夫婦の誓いをし、肌を合わせるのだと思うと、リリアは複雑な心境になる。
しかし、ここまで来たら今さら逃げるわけにもいかない。リリアは覚悟を決めなければならないのだが、まだ心のどこかで躊躇している自分がいた。
逃げることは許されない立場。今すぐは難しいかもしれないが、いつかそのうち彼を愛せる日が来るのかもしれない。そう信じようとしなければ、この状況に耐えられそうになかった。
こんな豪華な部屋やドレスを用意してくれるほどに、リリアは歓迎されている。本当は妻になりたくないなどと言えるはずがなかった。