(執筆日:2016年06月26日)
客室らしき部屋に連れて行かれたが、リアナとそう年齢の変わらない二人の女性を呼んで、デュレンはどこかへ消えてしまった。使用人の女性二人は明らかにリアナとは違う生地の服装で、立場の差を感じずにはいられなかった。
とはいえ、リアナは落ちぶれた貴族だ。フレングス家がなくなってしまった今、子爵家の娘という肩書に意味はあるのだろうか。
「タニアと申します、リアナ様」
「イーシャと申します、リアナ様」
名乗った二人の使用人に愛想はなく、リアナは正直な気持ち戸惑った。ミラファ家の使用人は主人以外には態度が悪いのだろうか。二人とも笑えばもっと可愛くなるだろうに。
タニアは赤毛で色白だがそばかすのある娘で、イーシャは長い茶髪を後ろでひとつにまとめた色白の娘だ。
「よ、よろしくお願いします」
リアナは気にしないように努めて、笑顔を見せた。
シーンと静まり返る室内。
「では、リアナ様こちらへ。ご存知だと思いますがこの国には温泉が豊富ですので、浴場も立派なものになっております」
「着替えは私がお持ちいたします。亡き奥様の服でもよろしければ」
無表情で淡々と話す二人に着いていく。亡き奥様ということは、デュレンの母は亡くなっているのか。デュレンが当主ということは、やはり父も。
そこまで考えてリアナはハッとした。亡き奥様がデュレンの妻である可能性もあるではないか。いやでもデュレンの若さから、それはないのでは。
あれこれ悩んでいるうちに脱衣所に着いていた。
「では、失礼いたします」
着替えを取りに行ったイーシャはいつの間にかいなくなっていたが、案内してくれたタニアがいきなりリアナのドレスを脱がそうとしてきた。ぎょっとする。
「ひゃああっ、何するのっ」
「お風呂に入っていただきます」
「それはわかってるけど、なんであなたが脱がすのっ。自分で脱ぐからっ」
慌てるリアナをタニアが怪訝そうな顔で見つめる。
「子爵家ではそのようなしきたりになっているのですか?」
「えっ?」
ここは平成の日本ではないのだ。リアナは思い至った。例えば中世のヨーロッパでは、こういう時どうするのが正解だったのだろう。歴史の勉強はあまり真面目にやっていなかったからわからない。
「フ……フレングス家では自分で脱いで自分で身体も洗っていたのよ」
実際はどうだったのか知らないのだが、リアナはそう言って誤魔化した。
「でも、ここではここのやり方に従うわ」
貴族らしく話そうとしたら、妙に偉そうになってしまった。