(執筆日:2016年08月04日)
タニアを下がらせて、リアナは再び一人で食事をした。ずーんと落ち込むような重いものが背中にのしかかる。
「なにしてるんだろう、私」
思い上がっていたのだろうか。親切心のつもりで、むしろ傷つけてしまった。貴族と使用人はどんなに頑張っても結ばれないのだろうか。デュレンがその気にならなければ成り立たないのかもしれない。
「デュレン本人に言ったほうがいいのかな」
強く想ってくれる人が他にいるのなら、そちらに譲ったほうがデュレンにとってもいいと思ったのだ。出会ったばかりのリアナよりも、ずっと近くで仕えていたタニアのほうが、もっとデュレンについて詳しいだろう。
そんな風にぐるぐる考えていたら、どこかから大声が聞こえてきた。リアナは食事の手を止める。
「…………?」
城の中がざわめいていた。漂う緊迫感。誰も食堂には入ってこないので、何が起きているのかわからない。リアナは椅子から立ち上がり、急いで廊下へと出た。
「デュレン様が……っ」
「誰か!」
「医者を……っ」
城内にはこんなにも人がいたのかと驚くほど、次々と兵士や使用人が走って行く。日頃は静かな城が、多くのざわめきで揺れている。どこかから聞こえてくる怒号。焦り。不安。リアナは戦慄して立ち尽くした。
「リアナ様」
イーシャが目の前に現れた。乱暴に腕をつかまれ、走らされる。使用人らしからぬ行動に戸惑ったが、咎める気持ちにはならなかった。
着いた先は城の大広間。玄関だった。
デュレンが血まみれで倒れている。兵士や使用人たちが囲み、必死で手当てをしていた。
リアナは驚いて立ち尽くし、固まったように動けなくなった。
デュレンの怪我は腕や肩や、胸から腹部にかけて。見るからに重症だった。服は破け、血に染まっている。命に関わるほどなのかどうかは判断できなかった。
救急車、と思って、そんなものはこの世界にはないと気づく。城下町から医者が駆けつけてきたが、今すぐに手術をしないと危ないのではないか。でもこの世界には手術の設備なんてあるのだろうか。医学はどの程度発達しているのだろう。
ぐわん、と空間の一部が歪んで、何者かが現れた。すらりと背の高い男性で、厳かな衣装を身にまとっている。司祭。賢者。昔テレビゲームで遊んだRPGのキャラクターが思い浮かぶ。ワープ? テレポーテーション?
「教会から司祭様が訪れました。もう大丈夫です!」
誰かが叫んだ。教会の司祭はワープができるのか。不思議な気持ちでリアナはその光景を見つめていた。
司祭の男は何かをつぶやきながら、豪華な装飾のついた杖を振り上げた。その周囲がまばゆい光に包まれる。これは魔法か? 魔法なのか? リアナは混乱した頭でそう思う。
デュレンが光に包まれた。一瞬にも感じられ、長くも感じられた。